手持ち撮影用パームレスト

3Dプリントで作ったパームレスト:手前右の二つは応用が広いタイプ,他はMF撮影用ちょっと間が空きましたが,また3Dプリントネタです.今回は手持ち撮影の時にあると快適なパームレストです.グリップと言った方が通りがいいかもしれませんが,必ずしも握るわけではなく,手のひらに載せて支える台という意味でこのように呼ばれています(“rest”=「台,支え」).ゴーヨン(IS I型)で手持ち撮影を始めた頃(10年前)にこんなのがあったらさぞ快適だったろうなぁというものが3Dプリントで作れましたので紹介します.

パームレストは,標的射撃の立射で重い銃を支えるために取り付けていたものが元のようです.撮影用ではマニュアルフォーカスレンズが中心の時代には市販されていたようですが,最近はほとんど見ることもなくなりましたね.ライカR用の”Pistol Stock”というパームレストを持っていますが,前後にスライド出来るのでレンズに直接固定してもある程度使いやすくなっています.ただ,幅がやや狭いので重いレンズには力不足気味なのと,手のひらに接触する面のカーブが私にはもひとつでした.

Pistol Stockを装着したAPO-TELYT-R 280mm F4
AFだと適当にレンズを持っていても問題なく撮影出来ることが多いですから,このようなアクセサリーは需要が限られるのかもしれません.MF撮影,特に重いレンズを使っている場合は,フォーカスリングの部分で直接重さを支えるとピント精度が悪くなったりフォーカスリングを大きく回すのが難しくなったりするので,レンズの他の部分で重さを支えつつフォーカスリングに指を伸ばすというスタイルが機能的だと思います.問題はどこで支えるかですが,選択肢はふたつしかありません.もちろん,フォーカスリングの先か手前かです.私がこれまで推奨してきたのはフォーカスリングの先を人差し指の付け根で支えてフォーカスリングを親指と中指で操作する方法です.この方法はレンズを安定して速く振りながらピントを合わせることが出来るので飛翔撮影向きですが,重いレンズで長時間これを続けるのはかなりハードです.妥協策というか,次善の策は,フォーカスリングの先を人差し指の付け根で支えつつ,三脚座から伸ばしたプレート類を手のひらの付け根付近に当てることで,重さを2点に分散して支える方法です.これで持続時間が伸びますが,金属のプレートを手に長時間当てていると痛くなるので,手袋が年中必須アイテムでした.疲労が進むとこの方法も辛くなって来るので,三脚座から伸ばしたプレートに手のひらをべったりつけてレンズを支えるようになりますが,こうなるとフォーカスリングを大きく回すのはもう無理ですから,AF中心で時々MFで微調整するような撮影しか出来ません.

今回3Dプリントで作ったのは,上記の次善の策向けと同時に色々と応用が利くタイプと,手のひら全体で重さを支えながら大きくフォーカスリングを回せる主にMF撮影向けのタイプです.前者は「バリアングル・パームレスト」,後者は「ティルティング・パームレスト」と呼んでいます.どちらもティルトすることには変わりませんが,前者は固定して使うのが前提,後者は固定せずに使うのが前提です.この二つの機能を安易に兼用しようとすると中途半端なものになってしまうので,それぞれの機能に最適な形を考えています.手に触れるものや握るものは,人間工学的に形状やフィッティングが非常に重要で,これを怠ると使用感や疲れ方が全く違ってしまいます.動画撮影用機材のグリップはティルトするのが当たり前ですが,静止画用はまだまだ遅れていますね.私は,一眼レフカメラのグリップが未だに垂直に切り立ったままびくともしないことにかなり苦痛を感じるようになりました.キヤノン製でも動画用のCINEMA EOSシステムはグリップが可動式ですから技術的には対応出来るはずですが,古いしきたりにとらわれる習慣が強く残る写真の世界は頑固ですね.

まず,バリアングル・パームレストについて.手のひらに接触する面の傾きを好みや状況,三脚座の高さなどによって適宜変えられるようになっています.傾斜角を変えるための軸をパームレスト本体の端に置くことで,高さも同時に変わるようにしました.角度の固定にはロゼットを使用し,細かい歯が噛み合うことで,指先で軽くノブを締めるだけで驚くほどしっかり固定出来ます.調整出来る角度は5度単位です.動画撮影機材で一般的なロゼットは6度単位で角度調整可能ですが,それより少し細かくして使いやすくしました.ロゼット部に必要なネジ類は,M6x30mmのネジとM6メスネジ型ノブがそれぞれ1個です.

バリアングル・パームレスト
バリアングル・パームレストのロゼット

手のひらに接触する面の形状は手に掛かる重量を支えながら指を快適に動かすための工夫が施してあります.また,滑り止めのためのローレット(ナーリング)を2種類用意しました.平目(ストレート)と綾目(ダイヤモンド)です.フォーカスリングの操作の仕方によってどちらがより適しているかが変わります.

バリアングル・パームレストのローレット(ナーリング):左が平目(ストレート),右が綾目(ダイヤモンド)
平目ローレットは前後方向の滑りを防止しながら横方向にはずらしやすいですから,手のひらの上でパームレストの位置を適宜ずらしながらフォーカスリングを操作するのに適しています.綾目ローレットは前後左右の滑りを防止しますから,パームレストの位置を変えずにフォーカスリングを操作するのに適しています.もちろん,平目で位置をずらさずに操作することも可能ですが,綾目でずらしながら操作するのは抵抗が大きく,どちらが良いか迷ったら平目を選びます.

使用する時は,前後の位置調整が出来ないと不便ですから,パームレストにクイックリリースクランプをつけ,クイックリリースプレートがついた三脚座に接続します. クランプの固定ネジの方向は,上下どちらのタイプにも対応しています.

バリアングル・パームレストとクランプ

このバリアングル・パームレストを使ってMF撮影を快適にするには,使用レンズに極端な高さの三脚座がついていないことが必要です.三脚座が交換可能なレンズの場合は,サンニッパ用の交換式三脚座(いわゆるレンズフット)をつけると扱いやすいです.

バリアングル・パームレスト:サンニッパ用レンズフット(RRS製)をつけたヨンニッパにクランプで装着
以前紹介した私のレンズアンクル(プレートなしのレンズフット)では,SとMが適しています.

バリアングル・パームレスト:レンズアンクルSをつけたヨンニッパとの接続

フォーカスリングがマウント寄りについたズームレンズの場合は,カメラボディにバリアングル・パームレストをつけるとフォーカスリングの操作性が安定します.やれやれ,これでやっと新型EF100-400mmが私のブラックリストから除外出来ます.

バリアングル・パームレストとズームレンズ

オマケ機能として,前後逆向きにしてレンズに装着すると,快適なバリアングル・グリップとして使えます.長時間撮影で疲れ果てた時,AF撮影専門になりますが,非常に楽にレンズを支えて撮影出来ます.最初に書いた標的射撃の立射用パームレストはこんな感じで左腕を下げた状態で重さを支えるためのものです.左腕を下げて肘を体に密着させることで,重さを支えるのに筋力がほとんど要らなくなるのです.

バリアングル・パームレストをグリップに

次は,ティルティング・パームレストです.重さを支えるためには手のひらの一部でなく全体でパームレストを持つと楽になるのは言うまでもありませんが,そうすると普通はフォーカスリングの操作性が強く制限されます.フォーカスリングと手の間に邪魔者が鎮座しているわけですから操作し難いのは当然ですね.しかし,よく考えるとフォーカスリングの操作は指だけでなく手首を動かすことでも出来ます.つまり,パームレストが手首と一緒に動いてくれたら,問題は解消してしまうのです.ただし,重さを支えられる状態でそう出来ないと意味がありません.実は,上記のバリアングル・パームレストの回転軸の位置を端から中程に移動するだけでこのようなことが可能になるのです.しかし,回転軸を移動することで高さの調整がほとんど出来なくなり,快適に使用出来るレンズも少なくなります.現在対応出来ている(と思われる)のは,三脚座が極端に低いマニュアルフォーカスレンズと,キヤノンの現行型(IS II)超望遠レンズです.マニュアルフォーカスレンズには三脚座に直接ネジ固定して使いやすいようにしてあります.キヤノン製超望遠レンズ(IS II)には私のレンズアンクルS(手が大きい人はMも可)を取り付けた上で,それに直接ネジ固定することで使えるようにしました.

プレート部の長さの違いが現在3通り(60mm,90mm,120mm)あります.フォーカスリングと三脚座の距離でどれが適しているかが決まります.120mmは剛性を出すために他より厚くしました.Arca-Swissスタイルのプレート部は,一般的なノブ式クランプの他,RRSのレバー式クランプにも対応し,互換性に最善を尽くしています.

ティルティング・パームレスト:プレート部の長さの違い.右から,60mm,90mm,120mm.

60mmはAPO-TELYT-R 280mm F4に最適化してしまいましたが,他のマニュアルフォーカスレンズでも十分使えると思います.また,ティルト角が大き過ぎてフォーカスリングに衝突するのを避けるため,横からM3ネジで角度制限出来るようにしてあります.

ティルティング・パームレスト60mmとAPO-TELYT-R 280mm F4

120mmはヨンニッパで丁度いいですが,ゴーヨンやロクヨンでもこれで対応出来ると思います.サンニッパやヨンヨンDOは90mmの方が良いかもしれません.これを使うことで,フォーカスリングの先を人差し指の付け根で支える必要はなくなり,人差し指はフォーカスリングの先にあるAFストップボタン(AFスタート機能を割り当て)に軽く伸ばしているだけです.手のひらで重さを支えながら自由自在にフォーカスリングを回せるので,おそらくこれ以上快適な操作性は望めないレベルまで一気に到達してしまったようです.10年前の自分にプレゼントしたいですね(もちろん,専用レンズアンクル付きで).

ティルティング・パームレスト120mmとEF400mm F2.8L IS II USM

ティルティング・パームレストがあまりにも快適なので,Easyrig Miniでぶら下げていても使えるようにアダプターまで作ってしまいました.ぶら下げていると揺れを抑えながらフォーカスリングを操作するためのパームレストが必要で,これまではフラッシュ・ブラケット(RRSのBシリーズ)で代用していたのです.

ティルティング・パームレスト90mmと接続アダプター(白いハーフリング)

バリアングル・パームレストは現在DMMに出品中です.ティルティング・パームレストの方はまだ最終調整の段階ですから,もう少し時間がかかります.自分専用なら追加工前提でも全く問題ないのですが,出品するとなるとそうは行きませんね.


追記(2015/03/07):ティルティング・パームレストも出品開始しました.バリアングル同様,パームレスト本体のローレット(ナーリング)が2種類あります.ただし,ティルティングではどちらのタイプも使用感はほとんど同じですから,好みの見た目で選んで下さい.

接合部の組み立てについて注意事項がありますので説明しておきます.まず,組み立てに必要な最小限の部品はM6x30mmのネジ1本です.パームレスト本体の傾斜角が大き過ぎてフォーカスリングに衝突してしまう場合は,角度を制限するためにM3x8mmのネジ1本も必要です.可動部にガタが生じないように,素通しのM6ネジ穴は造形精度を考慮した上でぎりぎりの寸法にしてあり,ネジを軽くねじ込むと入るぐらいの狭さを目標にしています.ただし,造形精度によっては,若干緩かったり,若干きつかったりするかもしれません.もし,きつくてネジが通り難い場合は丸ヤスリで軽く拡大してみて下さい.

次に,接合部を組み合わせてM6ネジで軽く締めたら,パームレスト本体を上下にティルトさせてみて下さい.接合部の接触面のざらつきが気になるかもしれません.このざらつきは素材の性質上必ず発生しますが,完全に取り除くことが出来ます.方法は,4つの接触面にシムリングを挿入することです.接合部を組み合わせたときに緩い感じであればそのまま無加工で大丈夫ですが,きつい感じのときはM6ネジを少し強く締めて摺り合わせたり,サンドペーパー等で接触面を軽く研磨して緩める作業が必要になります.必要なシムリングの厚みは0.1mm以下です.接合部が緩めの場合は0.1mmで十分ですが,きつめのときは0.05mm程度でないと入らないかもしれません.必要な大きさは,M3ネジ穴があいている部分1ヶ所が内径6mm外径12mm,その他3ケ所は内径6mmで外径25mm以下(私が使用しているのは16mmですが,大きい方が挿入は楽)です.シムリングは1個数十円です.

実際に撮影で使用する際,M6ネジは軽く締めてあるだけで十分ですが,好みによっては締め方を調整して若干トルク感があるようにした方が快適かもしれません.

手持ち撮影用パームレスト” への2件のコメント

  1. DMM.comからバリアングル・パームレストを購入して使用しています。
    使用感は、これ以上の物はないだろうと思うくらいとても良いです。フォーカスリングを回してもぶれる事がなくなりました。
    ありがとうございました。
    使用機材)
    カメラ:Pentax K3
    レンズ:KOWA Prominar 500mm
    ※K-ASTEC プロミナー556用3点セット を使用して三脚座の位置を低くしています。

    • tombo5969さん,ご購入ありがとうございます.
      使用感・使用機材のご報告も感謝します.
      自作品はどうしても自分の機材に合わせて作ってしまうので
      自己満足度が高くても果たして他の機材に対応出来ているのか
      とても不安なものです.
      ご報告頂いたK-ASTECの製品は色々と応用が利き便利そうですね.

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